【エモい】 (形)〔俗〕心がゆさぶられる感じだ。(略)〔由来〕ロックの一種エモ〔←エモーショナル ハードコア〕の曲調から、二〇一〇年代後半に一般に広まった。古語の「あはれなり」の意味に似ている。「三省堂国語辞典」より
長崎はエモい。
歳を重ねるごとに感傷的になり、
最近では美しい夕日や家々から溢れる灯りを目にするだけで
自動的に涙が流れてきてしまうほど情緒がバグった日々を送っているのだが
長崎はそんなセンチメンタルババァの感情をブンブン揺さぶってくる。
どこか懐かしい古びた建物、走るチンチン電車に急勾配の細い坂道を歩く尾曲がり猫…
この街は本当にどこを切りとってもエモい。
そんな長崎においてさえ街は新陳代謝を繰り返し、少しずつ変わっていく。
昨日あった建物が今日はもうないなんてことはざらだし
九州新幹線も通り、駅前は大規模なリニューアルがあったばかりだ。
新しくオシャレで便利であることは良いことには違いないけれど
壊してしまった古きものが戻ることは二度とない。
感傷的と笑わば笑え。
古き懐かしきものは今日も私の心を温めてくれる。
昔からずっとそこにあるものは誰かの大切な思い出なのだ。
…という訳で先日長崎をよく知る、
そしてエモさを愛する同好の友人達と
「長崎のおすすめエモポイントを持ち寄ってエモさを愛でつつ歩こう」という、
長崎エモウォークを開催した。
元芸妓や僧侶、報道関係者もメンバーに含んだ最強の布陣。
とても趣深い良き会となったので今回はそれを備忘録的に記録しておこうと思う。
①湊公園
まず今回の集合は湊公園。
近代的な建物に囲まれて突如現れる中華風の門が
長崎らしい良い風情を醸し出している。
場所柄からか子どもの遊び場というより大人の休息の場となっているようで
喫煙スペースで一服したり、ベンチで昼寝をしているサラリーマン風の男性の姿がちらほら見られた。
この公園のエモポイントは園内の東屋の下
日がな一日将棋を指す近所のおじさま方だ。
娯楽に溢れ、スマホ一台で世界中の人と繋がれるこの令和の時代に
将棋を指すために公園に集うおじさま方を
優しい目で眺める我々。
傍から見たらちょっと異様な集団だったかもしれない。
勝負が盛り上がって時に激しい喧嘩になることもあるということだが
この日は平和的に盤を囲んでいらっしゃった。
②新世界
以前あったという映画館「新世界」の跡地を見るために公園の裏手へ。
かつて長崎市内にはたくさんの映画館があったが
大型のシネコンの登場に伴い閉館が続き
ただ一つセントラル劇場というミニシアターを残すのみ。
新世界は我がエモウォーク隊で一番お姉さんのぐりママが
高校一年生の頃、デートで「愛と青春の旅立ち」を見た思い出の映画館なのだという。
リチャードギアのやつ!それで最後帽子めっちゃ投げるやつ!
たくさんの人の愛と青春、
たくさんのリチャードギアを見守ってきた映画館も今ではマンションと病院になっていた。
切ない。
③岩永ビルと唐人屋敷
また道を引き返し、今度は唐人屋敷の方へ。
四海楼跡前で社長宅を眺めたり唐人屋敷跡の石碑と説明書きを読むなどしながらゆっくり歩く。
下世話か。
江戸時代、オランダ人は出島だが
華人はこの唐人屋敷周辺に集められていたということで
今も所々に中華風の建物が残り独特の雰囲気。
華やかな大門を潜って
地主神を祀る土神堂前を通ると…
長崎特有の細い坂とレトロな住宅の並びが良い感じにエモイ路地に出る。
ちょうどアパート工事中だった、まさにこの場所には
丸金温泉という中華風の意匠が特徴的な銭湯があったそうで
なくなってしまったのは非常に残念であった。
このアパートの隣の雑居ビル(岩永ビル)はよく映画のロケ地に使われている建物として有名で、
入り口に映画の名前がずらっと列挙されていた。
確かに物語を感じさせる佇まい…。
私が見たことのある「悪人」もその中にあったので
と鼻息荒くポスターをよくみてみたら
いらしたのは樹木希林さんだということだった。
そんなシーン、あったような気もする。
あと猫のうんこ踏んだ人、
掃除する人のこと考えないとダメだぞ!
ここら一帯をぷらぷらしたあとは
近くにあった蔵の資料館でポップな中華風ポスター
の写真をとったり
ブラタモリでも紹介されていた石を組んで作られた堀を眺めたり
昭和を感じる型板ガラスを愛でたりしながら
大徳寺方面へと移動したのだった。
④大徳寺
次は長崎七不思議にも「寺もないのに大徳寺」とうたわれる大徳寺である。
寺は昔はあったのだが廃寺になった
…と書かれているのをどこかで見たような気もするのだが正確なところはよく分からない。
まぁ、あまり真実にこだわり過ぎるのも野暮というもの。
あるがままの不思議を楽しむのがエモウォークなのである(決して調べるのが面倒くさい訳ではない)。
大徳寺へ続く細い路地から鳥居を潜り、長い長い階段を登ると…
もうここでエモウォーク終わってもいいかな?と思うくらい疲労する。
登り切って息も絶え絶えになりながら見渡すと
寺はないけど神社はあった。
正面はゆったりとした広場になっており
籠町の公民館がたっていた。
長崎きて10年以上経つけど龍踊り、ちゃんと見たことないや。
龍踊りに思いを馳せながら少し歩くと
大きな楠木と古く可愛いお店が一軒。
梅ヶ枝焼き餅屋さんの菊水だ。
そこだけ時が止まったかのような外観に震える。
凄くいい…。
震えている間に友人が速攻で餅を注文してくれていた。好き…。
一人前4個で700円。
注文すると優しい笑顔のおばあちゃんがその場で
餡をお餅に手早く包んで金型で焼いてくれる。
機械化の入り込む余地のない、100パーセント手作りの焼き餅。
かつて丸山の遊女達もこのお餅、同じ味を食べたかもしれないと思いを馳せることの贅沢。
もう少しと言わず、あと10年20年…
永遠にここに座っていていただきたい…!
60年のキャリアは伊達ではなく、お餅はとても美味しかった。
太宰府などで売っている梅ヶ枝餅はちょっと平くて薄いイメージだが、
ここのはとにかく餡子がたっぷりでパンパンに膨らんでいる。
焼きたてを食べるとビックリするほどお餅が伸びて
クリーミーですらある。
なんでも美輪明宏さんが長崎に帰省するたびに
ここにお餅を買いにこられるとか。
美輪さんもこのお餅が好きなんだな、等と考えながら
大きめのお餅であったがあっという間にペロリと完食してしまった。
建物の屋根、そして大楠の上で
猫ちゃんが日向ぼっこしているのもエモい。
お餅と猫でエネルギーを充填し、
博識な友人の尾曲猫講座を聞きながら
次の目的地、丸山へと出発した我々であった…。
長くなったので今回はここまで。
②に続く…!
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